「あの作品を書き終えたら付き合おう」
そう言って僕らはそれを理由に作品の完成を目指していた。
とは言っても特に決まりもなくどんな作品を書いてもいいという条件の上で始められたものだ。
如何せん語彙力も無く、当時はあまり他の作品を見る機会も無かったので、どういう物が完成となるのかが全く分かってなかった。
考えてみれば無謀とも、簡単、とも取れるそんな話題。
僕だって一生懸命やっていたつもりでいた。しかし、その意志は彼女のソレに比べれば遥かに低いものだったらしいと、彼女が死んでから分かってしまう。
結局彼女の死因は何だったのかと言われれば、僕が書き終えたのに対してまだ彼女が書き終えてなかったから、である。
そんな原因で? と言われてしまえば確かに思うところも無くはない。別に間に合ってなかったって責めるつもりは無かったし、責められるのはこちらだと思っていたから。
つまりだ。僕は直接的ではないにせよ、彼女の死因を作った張本人であるわけで。
「だから、このままではいけない」
罪滅ぼしのつもりだった。その為に中学時代は自分の感情を殺して過ごしていたのだ。
だと言うのに、今日のあれは何だろう。確かに鹿村先輩は優しくしてくれた。その優しさを突っぱねる事は出来ないしするつもりもない。だが、問題なのはあの後。
どうして2度目を望んだのか、である。それは決して許されない事だった。
「すいません、先輩」
結局、自分からそう頼んだのにこういう事しか出来ずに情けなくなる。
それでも、これが最善の選択だった。
涼介君と途中で別れた私は、寄り道をせずに家に帰った。
実を言うと、私のそこそこ早い帰宅ってのは珍しいと言われるくらいだ。と言うか、ついさっき弟に言われてしまった。
そう、何と言うかこの家にあまりいたくなかった。別に問題があるとかじゃない。
両親は優しくしてくれるし物も与えてくれる、弟は時々ワガママを言うけれど年相応でとても可愛く、こちらから構ってやりたいくらいの人物。
でも、私が無意識に避けてしまっている。理由は、自分でも分からない。
頭の中で少しだけ過去を思い出してみると、恐らく中学時代からそうだった。
流石に中学時代は遅い時間まで外にいるのが出来なかったので仕方なく家に帰っていたけど、高校になってある程度の金銭を稼げるようになると時間つぶしをしてから帰る、そういう生活が多く、よく心配されているのが日常だ。
「もう構わないで!」一度しつこい両親にそうやって叫んだ事がある。
それでも両親は見捨てずに優しくしてくれて、思わず涙が出たこともあった。
「どうして優しくしてくれるの?」と涙ながらに問うてみると「それが親だから。それに私が都子を愛してるからよ」とお母さんが答えてくれて、私はお母さんの胸に抱きついて泣き喚いた事もあったなぁ、と思い出して少し苦笑する。
自分でも何が言いたいのか分からない。きっとぶきっちょなんだ私は。
背中を柔らかく支えてくれるベットに身を預け天井を何ともなしに見つめた。
「上手く、出来てたかな……」
勿論それは涼介君の前での人格像の生成の事である。
つまり、あれは私が精一杯演じた結果。本当の私は常に暗く何かを恐れている、そんな弱い人間。
「ちょっと、調子乗っちゃったかな」
涼介君の反応が初々しいし可愛いかったので『デートかな?』などと、ついからかってしまった。
誰が私なんかを求めるというのだ。涼介君は「これからも」的な事を言ってくれたけれど、私が悪い気分にならないようにと気を遣ってくれただけだ。自惚れるな私。
「もう、何かに期待するのは疲れたよ」
出来ることなら、このまま真っ白な世界へ誘って、お願い神様。
けれど、誘ってくれたのは夢の世界で。
翌朝、当たり前のように私は起床した。
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