『あの作品を書き終えたら』5

「涼介君、帰ろっ」

「はい」

 この一週間で学校生活にも半ば慣れ、極めて順調な生活を送っていた。

『彼女』との件を考えれば「やめとけ」と言われるような状況だったが、しかし人を悲しませるってのは好きじゃないので、状況を合わせる事に専念している。

 と言うか、女の子を悲しませたら悲しませたで『彼女』にキツく怒られそうだった。結構ツンツンしてたし。

「成島くん、私も一緒でいーい?」

 それと、すっかり鹿村先輩と河野さんは仲良くなったみたいだった。昨日あの後何を話したのかは検討もつかないが、それでもギクシャクしてるよりは遥かにマシだろう。

「うん、じゃあ帰ろうか」

 昨日から、いや入学式初日から何かと異性と帰ってるなぁとか他人事みたいに感じて、僕は少しだけ驚く。中学生時代には無かった光景だったから。

「でね~――――」

「えー! それは本当ですか!?」

 うん、まぁ金魚のフン状態なのは否めないけど、僕にとってはこっちの方がいいだろう。話しかけられたら会話に混ざればいい、そうやって納得し、可憐なふたりの後ろを歩いて行く。

 何ていうか、それだけで少し優越感を感じていた。こんなに可愛い友達がいるんだぞ、っていう無駄な誇り。男なら間違いなく自慢したくなる光景。

「成島くんの好きな食べ物って何?」

「ん? 食べ物?」

「そう! 都子先輩と話してたんだけどさ~ちょっと気になって」

「ん~俺は煮豆かな~」

「えっ!? も、もうちょっとお弁当向きな食べ物で好みってない?」

「煮豆だって弁当に入るんだけどなぁ……じゃあ卵焼きとか?」

「なるほど……卵焼きって家庭によって味付け変わるし好みってあるから……どうすればいいんだろ」

 そんなこと聞いてどうするの? とか、もう先輩のこと名前呼びしてるんだね、とか、言いたいことが多すぎる。

「へ~涼介君って煮豆が好きなの?」

「はい。別にこだわりとかないですけど、昔から食べてましたからね」

 ちなみに、昔は嫌いだった。「母さん、いちいち入れるなよ!」と何回言ったかも分からないが、それでも強制力によって食べていたら自分から「入れて」と言うようになっていたのだ。

「じゃあ明日のお昼ごはんは一緒に食べようよっ。その時手作りの煮豆を食べさせてあげる!」

「え、いいんですか? めっちゃ嬉しいです! 楽しみにしてますねっ」

「うん!」

「……ちょっと都子先輩!」

「な、何ですか未紅ちゃん?」

「私もいるのにイチャイチャしすぎですよ!」

「そ、そんなぁ……」

 あ。先輩がすっかり涙目状態に。それに昨日から何なのだ河野さんのこの発言は。

 イチャイチャしてるだって? そんな事ないだろ……。

「じゃ、じゃあ私も! 明日のお昼のために卵焼き作ってくるよっ。……そしたら食べてくれる?」

「そ、そりゃあ作ってきてくれたなら食べるけど……河野さんって確か昼は学食だったよね?」

「そ、そんな些細な事はいいの! とにかく、明日作って持って行くから、お昼に食べてよね!」

「あ、ありがとう」

 何だこれ。リア充爆発しろ、とか言われかねない状況になっていた。


Berth of rears

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